nagi103’s diary

好きなものだけ語りたい

聲の形読了

イジメという現代問題を取り上げ、この問題を肌で最も感じている層がメイン読者で有る週刊少年マガジンで連載するという挑戦的作品、「聲の形」を読了しました。

以前に冲方丁のマルドゥックスクランブルのコミカライズを担当し、その実力を存分に見せてくれた大今良時、連載開始から個人的にかなり期待していたマンガです。

さて、冒頭では「イジメ問題」と表現しましたが、本来であれば「身障者への差別を主題とした作品」と形容すべきでは?と思った方もいると思います。

僕がこのマンガを読んだ時は、この設定はそれそのものをテーマにする、というよりはある種のデフォルメとして感じました。

「耳が聞こえないから起こったいざこざ」よりも「現代のディスコミュニケーション聴覚障害という形で表現しやすくした」という感じです。

この前提で、僕はこの漫画に対して各々のキャラクターが人間関係に真摯すぎて浮世離れしてる、と感じました。

この傾向が顕著だったのが直花だったと思います。

キャラクターとしては他人に流されてイジメに加担するタイプの良くいる女の子という感じです。

彼女はイジメをしたことに対して今時美談として求められるような「自分の理解が足りなくて申し訳ない」と謝るようなことはしない、そしてよくあることだと開き直ることもない、この作品の登場人物の中では一番心が強いと思います。

身障者たる西宮に、嫌いだとタイマンで言えるだけのメンタルを持つ人間は恐らく現実ではありえないと思います。

そもそも避けるか、裏でコソコソと嫌がらせをするのがせいぜいでしょう。

真っ向から、二人きりで、密室で嫌いだと宣言し、その嫌いな感情の出処と理由を考え煮詰め本人に伝える、これだけ自分のやった行為と他人への気持ちを考えられる人間はリアルではあり得ないでしょう。


突出したキャラクターとして直花を取り上げましたが、他のキャラクターにも共通する端的に言えば自分の行為を考えることがリアルではあり得ない話なのです。

「周りが無視したから自分も無視した」「友達が嫌いだから自分も嫌い」といった具合に、良かれ悪しかれの判断はとりあえず置いて空気との同調、そうすれば考えずに済む、といった人が大多数なのが現実です。


この漫画はリアルだとか現実問題に鋭く切り込んでるとかそんな意見が多いので個人的に感じたことをまとめてみました。

一つの作品としての完成度はかなり高いと思いますが、あくまで仮想空間に留まる解決に至った、というのが私見です。